【第12回】待ち行列



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ゆったり楽しむ高等数学
【第12回】待ち行列

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【趣旨】
数学の楽しみ方には二つ(もっと?)あると思います。
一つは今ある知識を使って難問を解く楽しみ。
もう一つは数学の美しい理論体系を知る楽しみ。

このメルマガでは後者を読者として想定し、だいたい月一回の
ペースで高等数学の基礎的な問題を出題します。

※初めてこのメルマガを読まれる方は、
http://phys.co-suite.jp/melmag.html
にも目を通していただけると、よりお楽しみいただけます。
このメルマガの意義と読み方を簡単に説明しています。

==== 数式表示について ====
このメルマガでは数式はLatexの表記法を使用しています。
かなり読みにくいと思いますので、
http://phys.co-suite.jp/melmag/012.html
でも、同じ内容を掲載していますので、ご覧ください(表示に少し時間がかかります)。
また、上記ページが正しく表示されないという方は、PDF化した
http://phys.co-suite.jp/melmag/012.pdf
の方をご覧ください。


■前回の問題と解答例■

[問] ある郵便局に ATM(現金自動預払機)が一台置いてあるとする。ATM には一時間当たり平均 $a$ 人の人が訪れる。また一人の人が ATM を操作するのに一時間あたり平均 $b$ 時間かかるものとする。さて、このときに ATM の前にできる行列の長さ(人数)の均衡状態での期待値を求めよ。ただし $ab<1$ とする。

ヒント:この手の問題では通常次の確率分布が仮定されますが、ここでもそれを使ってください。
  単位時間当たりに ATM に訪れる人数→ポアソン分布
  一人の人が ATM を操作する時間→指数分布

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[解] ATM には一時間当たり平均 $a$ 人の人が訪れることから、ある人が ATM に並んだあと、次の人がやってくるまでの時間間隔は平均 $1/a$ 時間の指数分布に従う。したがって、ある人が並んだ直後から $\Delta t$ 時間後の間に次の人がやってくる確率は $1-e^{-a\Delta t} \sim a\Delta t$ となる。同様に、一人の人が ATM を操作し始めて $\Delta t$ 時間以内に終える確率は $1-e^{-\Delta t/b} \sim \Delta t/b$ となる。

時刻 $t$ における行列の長さが $n$ である確率を $P_n(t)$ とする。$t+\Delta t$ 時間後における確率分布 $P_n(t+\Delta t)$ を求めよう。これは次のように求められる。
\[ P_n(t+\Delta t) = P_n(t) + a\Delta t P_{n-1}(t) + \Delta t/b P_{n+1}(t) - a\Delta t P_n(t) - \Delta t/b P_n(t) \] 右辺第一項は何も変化がない場合の寄与を表す。右辺第二項は、一人少ない状態において新しい人が ATM に並ぶ確率を表す($a\Delta t$ は条件付確率であったことに注意)。右辺第三項は、一人多い状態において ATM での操作が一人終了したことを表す。第二、三項は変化の結果行列の長さが $n$ 人になったということなので、$P_n(t+\Delta t)$ にプラスの寄与を与える。右辺第四項は、$n$ 人の状態において新しい人が ATM に並ぶ確率で、右辺第五項は、$n$ 人の状態において ATM での操作が一人終了したことを表す。第四、五項は変化の結果行列の長さが $n$ 人でなくなったということなので、$P_n(t+\Delta t)$ にマイナスの寄与を与える。

$\Delta t \to 0$ の極限では、 \[ \frac{d}{dt}P_n(t) = a P_{n-1}(t) + \frac{1}{b} P_{n+1}(t) - a P_n(t) - \frac{1}{b} P_n(t) \] となる。均衡状態では $\frac{d}{dt}P_n(t)=0$ なので \[ a P_{n-1}(t) + \frac{1}{b} P_{n+1}(t) - a P_n(t) - \frac{1}{b} P_n(t) = 0 \] を得る。さてこの漸化式を解くために(常套手段として)$P_n(t) = cx^n$ とおこう。ただし $c$ は $n$ によらない定数。すると \[ a x^{n-1} + \frac{1}{b} x^{n+1} - a x^n - \frac{1}{b} x^n = 0 \] を得る。これを解くと、$x=0,1,ab$。さて、確率の総和は 1 なので、$\sum P_n = \sum cx^n = 1$。したがって $x=0,1$ は妥当でなく、$x=ab$ と決まる。長さの期待値は \[ \sum nP_n = \sum n c(ab)^n = c\frac{ab}{(1-ab)^2} \] 一方、規格化条件より $c=(1-ab)^{-1}$ なので行列の期待値は $ab/(1-ab)$ となる。
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■解説■

この問題はオペレーションズリサーチの世界で「待ち行列」と呼ばれていて、典型的な確率過程の問題になっています。今回は ATM が一台だけだったので初等的に解けましたが、いろんなバリエーションの問題があり、非常に面白い分野の一つです。

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■問題■

[問] $y\ge 0$ 上で定義された微分方程式 $y'=2\sqrt{y}$ の解を考える。この解の一つは $y=(x-C)^2$ である。ここで $C$ は任意定数である。また方程式の形から明らかに分かるように $y=0$ もまた解になっている。さらに任意の定数 $C$ に対して、 \[ \left\{ \begin{array}{ll} 0 & x<C \\ (x-C)^2 & x\ge C \\ \end{array} \right. \] もやはり解になっている。そこで次のことが分かる。すなわち、微分方程式 $y'=2\sqrt{y}$ の解で、初期条件 $y(0)=0$ を満たすものは \[ \left\{ \begin{array}{ll} 0 & x<C \\ (x-C)^2 & x\ge C \\ \end{array} \right. \] である。ただし $C$ は $C\ge 0$ なる任意の定数。さて、このように解が一意に決まらない理由を述べよ。

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■後記■

今気付きましたが、今回は12回目の発行であり、このメルマガは月一回の発行ですので、ちょうど一年継続できたということになります。月一なので「一年継続」といっても大したことないと思われるかも知れませんが...。

というわけで次号は一周年記念ということになります。特に何も企画していないのですが、どうぞお楽しみに!!

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          発行者  :柴尾昌克
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