【第4回】ε-δ論法



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ゆったり楽しむ高等数学
【第4回】ε-δ論法

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【趣旨】
数学の楽しみ方には二つ(もっと?)あると思います。
一つは今ある知識を使って難問を解く楽しみ。
もう一つは数学の美しい理論体系を知る楽しみ。

このメルマガでは後者を読者として想定し、だいたい月一回の
ペースで高等数学の基礎的な問題を出題します。

※初めてこのメルマガを読まれる方は、
http://phys.co-suite.jp/melmag.html
にも目を通していただけると、よりお楽しみいただけます。
このメルマガの意義と読み方を簡単に説明しています。

==== 数式表示について ====
このメルマガでは数式はLatexの表記法を使用しています。
かなり読みにくいと思いますので、
http://phys.co-suite.jp/melmag/004.html
でも、同じ内容を掲載していますので、ご覧ください(表示に少し時間がかかります)。
また、上記ページが正しく表示されないという方は、PDF化した
http://phys.co-suite.jp/melmag/004.pdf
の方をご覧ください。


■前回の問題と解答例■

[問]ある数列 $\{a_n\}$ に対して $\lim_{n \to \infty} a_n=a$ であるとき、
\[ \lim_{n\to \infty} \frac{a_1+a_2+\cdots +a_n}{n} = a \] を証明せよ。

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[解]任意の $\varepsilon>0$ をとる。仮定よりある $N$ が存在し、$n>N$ なる全ての $n$ に対し、$|a_n-a|<\varepsilon$ が成り立つ。すると任意の $n>N$ に対し、
\begin{eqnarray*} \left| \frac{a_1+a_2+\cdots +a_n}{n}-a \right| &=& \left| \frac{a_1+a_2+\cdots +a_N - Na}{n} + \frac{a_{N+1}+\cdots +a_n - (n-N)a}{n} \right| \\ &\le& \left| \frac{(a_1-a)+(a_2-a)+\cdots +(a_N-a)}{n} \right| + \frac{|a_{N+1}-a|+\cdots +|a_n-a|}{n} \\ &<& \left| \frac{(a_1-a)+(a_2-a)+\cdots +(a_N-a)}{n} \right| + \frac{(n-N)\epsilon}{n} \\ &\le& \left| \frac{(a_1-a)+(a_2-a)+\cdots +(a_N-a)}{n} \right| + \epsilon \end{eqnarray*}

ところで、有限和 $(a_1-a)+(a_2-a)+\cdots (a_N-a)$ は有界なので \[ |(a_1-a)+(a_2-a)+\cdots (a_N-a)| < M \] なる定数 $M$ が存在する。従って改めて $n > \max\{N,M/\varepsilon\}$ ととれば、
\begin{eqnarray*} \left| \frac{a_1+a_2+\cdots a_n}{n}-a \right| &<& \frac{M}{n} + \varepsilon \\ &<& \frac{n\varepsilon}{n} + \varepsilon = 2\varepsilon \end{eqnarray*} を得る。すなわち
\[ \lim_{n\to \infty} \frac{a_1+a_2+\cdots a_n}{n} = a \] である。

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■解説■

まず、$(a_1+a_2+\cdots +a_n)/n$ を直感的にとらえてみましょう。$a_n$ は $a$ に収束することから、$n$ が大きくなるにつれて、分子は $na$ と大差なくなるということになります。というのは、$n$ が十分大きいときの $a_n$ の値は極めて $a$ に近く、それらが分子の和に大きな寄与を果たすからです。そして $na$ を $n$ で割るわけですから、極限値は $a$ になりそうだという予測が立ちます。

ですから、実際の証明においても、分子を前半($n\le N$)と後半($n>N$)に分けるところがミソになります。前半の分子は有限和になっているので、分母の $n$ が大きくなればなるほど、前半は 0 に近づきます。一方、後半は $a_n \rightarrow a$ の仮定があることから、分子の各項自体が 0 に近くなっています。ただし、項の数も $n$ が大きくなるにつれて増えていきますから、そこはきちんと解析が必要なのですが、この問題の場合は、後半も 0 に収束していくのが分かります。

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■問題■

[問]ある医療研究機関が、確度の高いガン発見方法を開発した。大勢のガン患者に対して、この方法をテストした結果、$99\%$ の確率で陽性反応が出た。一方、大勢の健常者に対してもこのテストをやってみると $2\%$ だけではあるが、やはり陽性反応が出た。さて統計的調査によれば、全人口の $0.1\%$ はガンにかかっているということが分かっているとする。さて、巷から無作為に選んだある被験者に対し、このテストをしたら陽性反応が出たとする。このとき、この被験者がガンではない確率を求めよ。

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今回は確率論からです。確率論をやった方には見たことのある有名なタイプの問題ですね。

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■後記■

最近知ったのですが、ちくま学芸文庫さんから、志村五郎先生の著作が出ているのですね。このメルマガ読者ならご存知であろう志村・谷山予想で有名な志村五郎先生です。 志村・谷山予想がフェルマーの最終定理の解決に大きく貢献したというのは有名な話です。その志村先生が一般向けに本を書かれています。
  数学をいかに使うか (ちくま学芸文庫)
  数学の好きな人のために: 続・数学をいかに使うか (ちくま学芸文庫)
その場で買おうと思ったのですが、財布に500円ちょっとしかなく、あえなく断念。しかし、図書館に本があるとの情報を得たので、今度予約しに行きます!

ところで、ちくま学芸文庫さんはランダウ・リフシッツの物理学小教程を復刊されるなど、我々のニーズをうまく汲み取ってくれていて、とても注目しています。
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ゆったり楽しむ高等数学
          発行者  :柴尾昌克
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