【第30回】変分法



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ゆったり楽しむ高等数学
【第30回】変分法

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【趣旨】
数学の楽しみ方には二つ(もっと?)あると思います。
一つは今ある知識を使って難問を解く楽しみ。
もう一つは数学の美しい理論体系を知る楽しみ。

このメルマガでは後者を読者として想定し、だいたい月一回の
ペースで高等数学の基礎的な問題を出題します。

※初めてこのメルマガを読まれる方は、
http://phys.co-suite.jp/melmag.html
にも目を通していただけると、よりお楽しみいただけます。
このメルマガの意義と読み方を簡単に説明しています。

==== 数式表示について ====
このメルマガでは数式はLatexの表記法を使用しています。
かなり読みにくいと思いますので、
http://phys.co-suite.jp/melmag/030.html
でも、同じ内容を掲載していますので、ご覧ください(表示に少し時間がかかります)。
また、上記ページが正しく表示されないという方は、PDF化した
http://phys.co-suite.jp/melmag/030.pdf
の方をご覧ください。


■前回の問題と解答例■

[問] フェルマーの原理によれば、光は、任意の固定された二点 $P_1$, $P_2$ 間を結ぶあらゆる経路のうち、光路長が最短の経路を進む。光路長は媒質の屈折率を $n$ とすると $dl=nds$ で与えられる。ただし $ds$ は物理的な微小距離、$dl$ は微小光路長。$P_1,P_2$ 間を結ぶ経路 $C$ を通過するときの全光路長 $L[C]$ は \[ L[C] = \int_{P_1\;C}^{P_2} nds \] である(積分記号の脇にある $C$ は経路 $C$ に沿っての線積分であることを意味する)。$n$ は一般に座標の関数である。フェルマーの原理から光の軌道を表す微分方程式を導け。

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[解] 光の経路をパラメータ $t$ を使って $x(t),y(t),z(t)$ と書く($t$ という文字を使っていますが、別に時刻を表しているつもりはありません)。$t=0$ で $P_0$、$t=1$ で $P_1$ を通過するとする。すると、微小距離は $ds = \sqrt{\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2}dt$ である。よって経路 $C$ を通過するときの光路長は \[ L[C] = \int_{P_1\;C}^{P_2} n\sqrt{\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2} dt \] となる。最短の光路長を与える経路を $C_0$ とし、そのときの軌道を再び $x(t),y(t),z(t)$ と書きなおすことにする。この経路を任意の微小量 $x(t)+ \delta x(t),y(t)+ \delta y(t),z(t)+ \delta z(t)$ ずらした経路 $C$ を考える。ただし始点 $P_1$ と 終点 $P_2$ は固定するので、$\delta x(0) = \delta x(1) = 0,\delta y(0) = \delta y(1) = 0,\delta z(0) = \delta z(1) = 0$ とする。このときの光路長の差異は高次の量なので \[ L[C]-L[C_0] = 0 \] とできる。 \begin{eqnarray*} L[C]-L[C_0] &=& \int_0^1 n(x+\delta x, y+\delta y, z+\delta z)\sqrt{(\dot{x}+\delta \dot{x})^2+(\dot{y}+\delta \dot{y})^2+(\dot{z}+\delta \dot{z})^2} dt\\ & & - \int_0^1 n(x, y, z)\sqrt{\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2} dt \\ &=& \int_0^1 \left( \left(\frac{\partial n}{\partial x}\delta x + \frac{\partial n}{\partial y}\delta y + \frac{\partial n}{\partial z}\delta z \right) \sqrt{\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2} + \frac{n}{\sqrt{\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2}}\left( \dot{x}\delta \dot{x} + \dot{y}\delta \dot{y} + \dot{z}\delta \dot{z} \right) \right) \\ &=& \int_0^1 \left( \left(\frac{\partial n}{\partial x}\delta x + \frac{\partial n}{\partial y}\delta y + \frac{\partial n}{\partial z}\delta z \right) \sqrt{\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2} \right. \\ & & \left. - \left( \frac{d}{dt}\frac{n}{\sqrt{\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2}} \dot{x} \right) \delta x - \left( \frac{d}{dt}\frac{n}{\sqrt{\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2}} \dot{y} \right) \delta y - \left( \frac{d}{dt}\frac{n}{\sqrt{\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2}} \dot{z} \right) \delta z\right) \\ &=& \int_0^1 \left( \frac{\partial n}{\partial x}\sqrt{\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2} - \frac{d}{dt}\frac{n}{\sqrt{\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2}} \dot{x} \right) \delta x\\ & & + \int_0^1 \left( \frac{\partial n}{\partial y}\sqrt{\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2} - \frac{d}{dt}\frac{n}{\sqrt{\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2}} \dot{y} \right) \delta y\\ & & + \int_0^1 \left( \frac{\partial n}{\partial z}\sqrt{\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2} - \frac{d}{dt}\frac{n}{\sqrt{\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2}} \dot{z} \right) \delta z \\ &=& 0 \end{eqnarray*} を得る。ここで部分積分と、$\delta x(0) = \delta x(1) = 0,\delta y(0) = \delta y(1) = 0,\delta z(0) = \delta z(1) = 0$ を使った。これが任意の $\delta x, \delta y, \delta z$ について成り立つべきなので、以下の微分方程式 \begin{eqnarray*} \frac{d}{dt}\frac{n}{\sqrt{\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2}} \dot{x} &=& \frac{\partial n}{\partial x}\sqrt{\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2}\\ \frac{d}{dt}\frac{n}{\sqrt{\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2}} \dot{y} &=& \frac{\partial n}{\partial y}\sqrt{\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2}\\ \frac{d}{dt}\frac{n}{\sqrt{\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2}} \dot{z} &=& \frac{\partial n}{\partial z}\sqrt{\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2}\\ \end{eqnarray*} を得る。

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■問題■

[問] 有理整数環 $\mathbf{Z}$ の任意のイデアルは単項イデアルであることを示せ。

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■後記■

先月会社をサボって、量子力学に関するある研究会に行ってきました。
その中でとても印象に残った話が一つありました。

物理学で出てくる多くの理論は出発点(数学でいう公理)は物理的言明です。たとえば特殊相対性理論の出発点は「相対性原理」と「光速度不変の原理」です。どちらも物理の言葉です。

ところが、量子力学は事情が違います。「状態はベクトルで表現される」「観測量はエルミート演算子である」など、数学的な言明になっています。

それで、量子力学に対しても、出発点を物理の言葉で書けないかという研究がなされているのだそうです。おそらくそういう試みは量子力学の草創期からあったとは思いますが、近年発展してきている情報理論的アプローチでいくらかの進展があったとのことのようです。

私もこれを機に論文を読んでみようと思っています。

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